よい子のQP童話「湖姫」【前編】
昔々、ある国にとても美しい湖がありました。
湖にはも妖精の王様が住んでいました。その姿は人間からは見えないけれど、人間たちが安全に暮らせるよう、こっそり手助けするのが王様のお仕事なのでした。
王様は可愛らしいお城(これまた人間からは見えないのですが・・)で、双子の娘たちと一緒に暮らしています。おとなくして可憐な二人のお姫様を、王様は目にいれてもいたくないほど可愛がっておりました。
お姫様たちはケーキを食べたりお茶を飲んだりして、毎日穏やかに過ごしています。ティータイムの後は、二人で一緒に歌を歌います。お姫様たちの声の美しさは妖精仲間では有名なのです。
ある日、妹姫が散歩していると、一人の人間が湖畔にたたずんでいるのに出会いました。妹姫は、こんな間近で人間を見るのは初めてです。自分の姿は人間からは見えないので、安心して近くで観察することにしました。
王冠を頭にのせ、マントをはおった若い男の人です。「・・きっと、人間の国の王子さまだわ」さらに近づいてみると、王子さまは優しい声で歌っています。
その歌声のなんと美しいこと!!妹姫は息をのみました。人間の声は妖精に比べるととても高くて、妹姫の耳には小鳥がさえずっているようにしか聞こえません。それでも王子様の声の持つ清らかな美しさは、耳よりも直接心に流れ込んでくるようでした。
妹姫はうっとりして、思わず合わせて歌ってしまいました。妖精の姿は見えませんが、声は人間にも聴こえます。王子様は一瞬「あれ?」という表情になりましたが、すぐににっこりしてそのまま歌い続けました。
静かな湖に、二人の美しい声だけが響きます・・
数日後・・。
何日か前から妹姫の様子が変です。大好きなお菓子もほとんど食べず、ため息ばかりついています。姉姫も王様も心配で仕方がありません。
「なにかあったの?」たまりかねて、姉姫がききました。
妹姫が大好きなマカロンにも手をつけないなんて、普通ではありませんもの。妹姫は、今日何十回目かのため息をつくと、思い切ったように言いました。
「お姉さま!私、人間に恋をしてしまったようなのです」
「えーーーっ」
妹姫は堰を切ったように、王子様への思いを話し始めました。美しい歌声や優しい笑顔を、どれだけ愛しく思っているか・・。そして、出来れば自分の姿も王子様に見てもらいたい!!お話がしたい!!
「なんて一途なんでしょう」姉姫は、妹姫の気持ちをとてもいじらしく思いました。出来ることなら、その願いを叶えてあげたい・・。
「そうだわ」
名案がひらめいて、姉姫はにっこりします。
「あの天使なら、なんとかしてくれるかもしれない」
姉姫の教えてくれた天使は、崖の上のお城に住んでいました。なんでも恋愛のエキスパートらしく、恋に悩む者の力になってくれるそうです。
「口は悪いけど気のいい人だから、きっとあなたの願いを叶えてくれるわ」
そう姉姫に励まされて、妹姫は天使のいるお城までやってきました。
「よーよく来たな!!」
金髪で可愛い顔をした天使は、その顔に似合わないハスキーな声でした。
「まっ、話はだいたい分かったけどよっ。王子との恋を叶えるには、まず人間にならねーと駄目なんだが・・」
「な、なれるんですかっ!!!!」
妹姫は必死です。
「そんなに慌てんなよっ。今、薬を出してやっから」
「おらよっ!!これだぜ」
天使が出してきた薬は、長命酒と書かれたみすぼらしい瓶です。
(・・う、うさんくさ~)妹姫は思わず心の中でつぶやきました。
「信用できねーのも無理ねえけど、効果は抜群だぜ」
天使が不適な笑みを浮かべます。
「しかも、今なら俺の口利きで、王子の城で小間使いのバイトが出来る!!」
(えーーーっ)
「ただし、その前に確認しておきたいことが・・って、聞けよっ」
王子様のお城で小間使い・・。想像しただけで、妹姫の頭の中はマークでいっぱいになってしまいました。長命酒に突進すると、勝手にコップについでクビグヒと飲んでしまったのです。
「・・飲んじまいやがった。前回の童話といい、この手の顔は意外とせっかちだよなっ」
天使がぼやいています。
「人間になる前に聞いとかなくちゃいけねー、重要な話があったのによ。
・・まっ、いいかこんだけ思いつめてちゃ、どうせ何も耳に入らねえしな」
もともと細かいことは考えない天使は、すぐに気持ちを切り替えたようです。
「とりあえず、これだけは注意しておくぜ!!
今のお前はもう、人間の声も出せて話も聞き分けられる。だがよ、歌だけは妖精の声でしか歌えねえんだ。妖精の歌声は、人間の耳にはある楽器の音にしか聞こえねーから気をつけろ あんな楽器の声で歌うオンナなんて、百年の恋もさめるからよっ!」
「はい、覚えておきます」
「まっ、これは恋のエキスパートからのアドバイスだけどな」
ちょっと休憩~
お茶R「俺たちはここまで出番なしかよっ!!」
お茶B「僕だけじゃなく会見Bすら出てないなんて~ 世界のブライアンファンが黙ってないさ」
↑
どさくさ紛れに、の宣伝はやめなさいって( ̄▽ ̄;A
休憩終わり~
さてさて、人間に変身し王子様との距離をくぐーーっとつめた(そうか??)妹姫は、意気揚々とおうちに戻ってきました。
「・・人間になってしまったのかい」
王様が情けない声で言いました。
「人間は病気もするし、寿命だって私達とは比べ物にならないほど短いのだよそれに・・」
「いいえ、お父様!!今の私にはそんなこと、些細な問題なのですわ」
妹姫が強い口調で答えます。
「明日から、王子様のお城の小間使いとして働くことに決めたのです 明日朝一番で出発致しますわ(きりっ)」
「姫やそんなせっかちな~」
「まあ・・」
あのおっとりした妹姫が・・。姉姫は内心驚きました。そして、妹をそこまで変えたこの恋を、何としてでも応援してあげようと思うのでした。
次の朝
宣言通り、妹姫は人間の国に向かって出発しました。小さな鞄に最小限の荷物だけ詰めて・・。しかし、心の中は王子様への愛でいっぱいなのでした。
王子様が住んでいるのは、丘の上のとても美しいお城です。
天使のコネが効いたのか、王子様専属の小間使いに配属されました。お城の隅でこっそり眺めるだけでも幸せと思っていた妹姫には、夢の様な話です。
「名前はなんていうの?」
なんと、王子様が直々に言葉をかけてくれました。
「ジ・・、ジ、ジョンぴーです」
妹姫の心臓は、もう爆発しそうです。
「・・変った名前だね。僕はフレディだよよろしくね」
「は・・、はい」
王子様とお話ができた。人間の声が聞き分けられる・・って、何て素敵なんでしょう。言葉として聞く王子様の声はやっぱり優しくて、妹姫はもう天にも昇ってしまいそうです。
その日から、小間使いとして大忙しの日々です。
掃き掃除や雑巾がけ。深窓のお姫様育ちの妹姫には辛い仕事ばかりですが、王子様のためならへっちゃらなのでした。
そんなある日のこと。
お部屋を掃除していた妹姫に、王子様が言いました。
「ジョンぴーはベースが弾けるかい??」
王子様の足元には、ギターに似た楽器が置いてあります。妹姫は初めて見るものでした。
「この前、湖で歌っていたら、僕の歌に合わせて誰かがベースを弾いてくれたんだ。これがとっても素敵な音でねえ」
王子様は目をキラキラさせて話し続けます。
「もう、うっとりしちゃったよ。ただ、とても近くで音が聞こえたのに、弾いてる人の姿はどこにも見当たらなかったんだけど・・」
「幸いその時の録音が残ってるんだ。いつ新しい曲を考え付いてもいいように、お散歩にはいつも録音機を持っていくからね
ジョンぴーもちょっと聞いてごらん」
そう言いながら、王子様が録音機のスイッチを押します。流れてきた歌を聞いて、妹姫はハッとしました。
(こ、これは!!あの時の歌!!!)
二人が出会った時に王子様が歌っていた歌はありませんか。そして・・。
「ここからベースが入るよ」
聞こえてきたのは、人間の声よりずっと低い音。妹姫はさっきより、もっともっと驚きました。王子様の歌に寄り添うように少し控えめに響いているその音は、紛れもなく自分の歌声だったのです。
「どうしても、もう一度この音が聞きたくて、今日国中におふれを出したんだ」
「名乗り出てくれればいいなあ(^^)」
嬉しそうにお喋りしている王子様の横で、妹姫は呆然としていました。
(それは私ですと言えば、王子様は私のことを好きになってくれるかしら。ああ、でも駄目楽器じゃなくて声だってわかったら、怪しまれてお城から追い出されてしまうかも~(>o<))
王子様の部屋を出てからも、悶々と悩み続ける妹姫なのでした。
しばらくして・・。
まだ悶々としている妹姫を、驚愕させる事件が起こりました。「私があのベースを弾きました」という人物が現れたのです!!
その人は「ジョンガラ国の王女・メイ」と名乗りました。背も鼻もとても高い、それはそれは美しい女性で、手にはギターを抱えています。
王子様はとても喜んで頼みました。
「じゃあ、さっそく弾いてみせてよ おーい(/^-^)/誰かベースを・・」
「いいえ。私にはこのギターがあれば大丈夫ですわ」
メイ王女は艶然と微笑むと、持っていたギターをかき鳴らし始めました。
「わあ(^^)ベースの音だ~!!」
王子様は、すっかり夢中になっています。
妹姫は、部屋の片隅でその様子を見ていました。王女が鳴らしている音は、確かにあの日の自分の歌声にそっくりです。ただ、楽器で出しているのだから当たりまえですが、歌詞にはなっていません。妹姫は「ああすてき、なんてうつくしいこえでしょう」(はっきり言って、作詞の才能はないようです)と歌ったのに・・。妖精の声を聞き分けられない王子様には、その違いが分からないのです。
「確かにあの時の人は君に間違いないよ」
王子様は喜びで興奮しています。
(違うわ、王子様!!その人は嘘をついています)
妹姫は心の中で必死に叫びました。でも、その叫びは届きません。王子様は更にメイ王女に向かってこう言います。
「何でも欲しいものをあげるから、遠慮なく言ってみてよ!!」
「はい。では私はこのまま王子様のおそばに置いていただきたいですわ」
「えーーっ(◎o◎;)ずいぶん大胆だね」
さすがの王子様もびっくりしたようです。しかし、すぐににっこりしました。
「まあ、いいか。何でも欲しいものをあげるって約束しちゃったしね(^^)。それに僕は一緒に音楽を楽しめる人が大好きなんだ」
(えーーっそんなあ)
妹姫は目の前が真っ暗になってしまいました。
「おほほほ、嬉しいですわ。では、喜びのギターソロを披露いたしましょう」
メイ王女は、またギターをかき鳴らします。今度はまるでバイオリンのように上品な高い音・・。
「わ~素敵だねえ」
王子様は、こちらもとても気に入った様子です。妹姫はその場にいるのが辛くなって、延々とギターが鳴り響く部屋からそっと抜け出しました。
それから・・。
家柄も申し分なく教養溢れたメイ王女は、王子様の両親(つまり国王夫妻)にもとても気に入られてしまったようでした。「国王さまが縁談の準備を進めている」という噂が、まことしやかに流れています。妖精の国の姫君とは言え、今はしがない小間使いの身でしかない妹姫に太刀打ちできる話ではありません。
(・・それに)
妹姫は湖のほとりでうなだれていました。
(それに、あの人のギターの音はほとんに美しい・・。私の歌なんかより、よほど王子様にお似合いだわ)
嘘をついているメイ王女は許せませんが、あのギターソロを思い出すたび、敗北感に打ちひしがれてしまいます。
(背も鼻も私よりずっと高いし・・。王子様はきっとあんな人がお好みなのだわっ)
(これ以上、王子様のお城にいるのは辛すぎる・・)
妹姫は、王子様とメイ王女が結婚するところを見る前にここを去ってましまおうと決意しました。
来た時と同じ様に、小さな鞄ひとつだけ持って妖精の国に帰ります。前はあんなに胸躍らせて歩いた道。今度は悲しい思いに胸がふさがれて、足取りも重いのでした。
「なんだよっせっかくアフターサービスに来てやったのに、妹姫のやつ帰っちまったのかっ!!」
妹姫の様子を見に来た天使がぼやいています。
「あいつ、せっかちな上にこらえ性もねーんだからっ。まっ、あんな強烈なライバルが現れちゃ、仕方ねーか・・」
「だがよっ・・あのメイってオンナ、なんかうさんくせーぜ」
後編に続く
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