よい子のQP童話「薔薇の精のハーブティー」【中編】
ウンザリするほど長いです。暇で死にそうな時に読んでね
お城での過去のお話・その1
ある日のこと・・。
図書室で調べ物をしていた王様は、「美しい声で歌う伝説の巨人」について書かれた古い文献を見つけました。
文献には、伝説の巨人の絵姿も載っていました。鳥の翼を思わせるヒラヒラした白い衣装を着た、夜のように黒い髪の男。その身体は後ろの丘よりもはるかに大きく、手前に描かれた家々がおもちゃのように小さく見えます。
絵の中の巨人は、歌を歌っているようです。文献の中に「丘よりも大きな巨人の歌声は、村中に響き渡った」という記述もありました。
(・・羨ましいな)
王様は思いました。ギターが得意な王様は、常々自分のギターを国民全員に心行くまで聴かせてあげたいと考えていたのです。
(なんとか、こんな巨人に変身できる方法はないだろうか?)
王様は、早速大臣に相談しました。大臣はとても物知りで、こんな時は頼りになるのです。
「その伝説の巨人の話なら聞いたことがございます。確か、その巨人の名前を叫びながら高くジャンプすれば巨大化できるとか」
大臣はうやうやしく、答えました。
「ただ巨人の名前は、私にはわかりかねます。天界に住む者ならば、きっと知っているはず・・。王様の名付け親の天使に訊ねてみてはいかがでしょう?」
「あの金髪の天使かい?」
王様はあまり気乗りしないのか、複雑な顔をしています。
「彼はどうも軽薄でいけないね。だいたいあの下品な喋り方は、天使にあるまじきものだよ。知的な僕とは、きっと反りがあわないね。とても力になってくれるなんて思えないのさ。そもそも僕はね・・(以下略)」
「そんな心配は無用でございます」
大臣は、ダラダラと続く王様の話に強引に割り込みました。こうでもしないと話が進まないのは長い経験でわかっています。
「うちの祖父が申していたことですが・・。国王の名付け親になった天使には、国王のいかなる頼みも断ってはならないという掟があるのだとか。万一断れば、恐ろしい運命が待ち受けているそうでございます。ふふふふふふ」
「全然安心できないんだけど~」
嫌がる王様を適当になだめて、大臣は早速天使を呼び出しました。
すぐにお城に現れた天使は、事情を説明すると明らかに機嫌が悪くなったようです。
「巨大化してギターソロだとぉ??何考えてんだ、てめえ」
「ほら~だから言ったじゃないかあ」
眉間に縦ジワを寄せて凄む天使を前に、王様は恨みがましい視線を大臣に送ります。
それではと、大臣が横から天使に話しかけました。
「天使さま、どうかこの国のためにお力をお貸し願えませんでしょうか?? あなたのような立派な天使ならば、あの伝説の巨人の名前も、当然ご存知のはず」
「会ったことはねえが、名前くらいは知ってるぜ・・。う~でもよぉ・・・」
何故だか、少し弱った顔の天使。
「・・う~ん」
天を仰いで考え込んでしまいます。しかし、しばらくしていいアイデアが浮かんだらしく、明るい声で言いました。
「おっそうだ!!おめえ、随分ひ弱そうに見えっけど、そんなに高いジャンプなんか出来んのかよっ???」
「う~それは~(>o<)」
今度は、王様が青ざめました。
「へっ出来ねーだろーがっ!!万一出来る様になったら、また呼べよ 巨人の名前を教えてやるぜ、がははは」
天使は高笑いをしながら、去って行きました。凹んで立ち直れない王様を、大臣が力強く慰めます。
「王様。国王たるもの、ここでくじけてはなりません。確かに運動神経は傍で見ていて蹴飛ばしたくなるほど壊滅的ですが、あなたには有り余る知性があるではありませんか!!」
「さりげなく運動神経に言及されて、更に傷ついたんだけど」
「どんな運動オンチでも、どこまでも高くジャンプ出来るようになるマシーンを発明するのです。あなたの頭脳ならば、お茶の子さいさいなはずです!!」
自慢の頭脳を褒められて、王様の顔色も回復してきます。
「まあね(いばりっ)。でも実を言うと、僕は装置の原理を考え出すのは得意でも、実際のプログラミングは苦手なのさ。僕の発明は、何故だか実用に向かないようだね・・」
そうなのです。今まで発明した数々のマシーンは、何故だかみんな途中でぶっ壊れたり、誤作動を起こして危険な目にあったり・・。
過去の失敗を思い出したのか、王様はまた不安げな顔になりました。大臣は、心配ないというように首を振りながら、またまた力強く続けます。
「腕のいいプログラマーを雇いましょう。幸い、私の遠縁にうってつけの人間がおります」
どんな運動オンチでもどこまでも高くジャンプ出来るマシーン。王様がこの試作品を完成させるのに、ほとんど時間はかかりませんでした。
「名づけて『誰でも楽々高くジャンプするよ~マシーン』だよ」
出来上がった試作品を前に、王様が満足そうに言いました。
「たった1週間で完成させるなんて、さすが王様。私が申しあげたとおり、あなたの優秀な頭脳にかかれば、こんなものお茶の子さいさいでございましょう」
「ふふふ我ながら、溢れる知性に驚いてしまうね(^^)v」
得意満面の王様。大臣もにこやかに褒めちぎります。
「そうです。あなたほど賢い方は、歴代の王の中にもいらっしゃらなかったはずです」
「ふふふふふ君もわかってきたじゃないか」
「この試作品をもとに、例の私の遠縁にプログラムを組ませれば、きっと安全確実なマシーンが出来上がりましょう!! 実は、彼はもう昨日から首都に出てきております。お城の近くに家も用意しました(^^)」
次の日、大臣に連れられてお城にやってきたプログラマーは、ジョンぴーと名乗りました。フワフワ柔らかそうな茶色の髪と、ちょっと目じりの下がった優しい目。王様や大臣の話を、ニコニコしながら黙って聞いています。
(温和な性格らしいな。あの天使みたいに凶悪なタイプは、かなわないからね)
王様は密かに安堵しました。
「あの者はお気に召しましたか?王様」
大臣が、少し心配そうに尋ねてきます。
「うん(^^)どこかの天使と違って、彼は王に対する礼儀を心得ているね。・・でも、かなりおっとりしてるようだけど、腕の方はほんとに確かなのかい??」
「それはご安心下さい。彼の仕事については、私が太鼓判を押させていただきます」
大臣の言葉どおり、ジョンぴーの仕事振りは素晴らしいものでした。王様がどんな注文を出しても、即座に的確に対応できるのです。彼に組めないプログラムなど、この世にないのではないかと思うほどです。
「いやあ、参ったね!まったく期待以上だよ(^^)v。パソコンに関しては、自分もいささか自信があったのだけれどね。さすがの僕も、彼にばかりはかなわなのさ。思うに、僕のプログラミングは高度な技を使いすぎて・・そもそも(以下略)」
王様がグタグタと喋り続けている間にも、プログラミングは着々と進行し、あれよあれよという間にほぼ完成してしまいました。あとは、実際に高くジャンプ出来るかテストするだけです。
家来による実験が慎重に行われた後、いよいよ王様自らが試してみることになりました。
「いやあ、緊張するねえ」
完成した「誰でも楽々高くジャンプするよ~マシーン」(一見巨大なキーホルダーにしか見えませんが・・)を装着した王様は、ちょっと心配そうです。
「今までの実験も100%成功したから大丈夫です。王様がジャンプしたら、マシーンが自動的にちょうどいい高さまで引っ張っていってくれます。そこで、いったん30秒止まった後、変身していない場合はそのままゆっくり降下します」
ジョンぴーが、控えめな笑みを浮かべながら説明しました。大臣も声援を送ります。
「頑張るのです王様!!全国民が、巨大化したあなたのギターを待ちわびておりますよ」
「そうだったねよしっ!!」
王様が思い切ってジャンプします。かなり弱々しい蹴りでしたが、あら不思議 王様の身体は力強く上昇していきます。そして、大臣やジョンぴーの頭上でピタリと止まりました。
「30秒停止します」
ジョンぴーが叫びます。みんなが見守る中、王様の身体はきっかり30秒空中に留まり・・。やがて、するすると静かに降下して、無事着地しました。
天使は更に語る
「・・・とまあ、そういう訳で、ともかく王のヤツはマサイ族みたいに高くジャンプできるようになっちまったのさ」
ジョンぴーの家の居間。天使が薔薇の精に、今までのいきさつを説明してします。
「長い話だねえ。途中で飽きてきちゃったよ」
薔薇の精が文句を言いました。
「うるせーっ!まだまだ続きがあんだからよぉ。退屈だからって、話の途中でウロウロしたり、ゼリー食ったりすんなよなっ!!」
「ビール飲みながら、時々居眠りしちゃうんだもん。待ってられないよ(つん)」
「飲まずにこんな話できねえだろうがっ!!・・でともかく、ジャンプに成功した王と大臣は、俺をさっそく城に呼びつけたわけだ」
お城での過去のお話・その2
「ほんとに出来るようになるとは思わなかったぜ・・」
天使が呆然と呟きました。
このほど、めでたく完成した「誰でも楽々高くジャンプするよ~マシーン」。今日は、天使を呼んで、お披露目しているのです。お城の大広間。大臣やジョンぴー、そして大勢の家来も見守る中、王様がジャンプを披露しています。見事に空高くジャンプする王様を何度見ても、天使にはまだこの事実が信じられないようでした。
「・・だいたい、その装置はなんだよっ!!卑怯じゃねえか」
「卑怯とはなんだい? 僕のたぐいまれなる知性にかかれば、運動能力さえ自由自在なのさ(いばりっ)。さあ!潔く負けを認めて、伝説の巨人の名前を教えたまえ」
「ちっしょうがねえなあ・・」
天使は眉間に皺をよせて、吐き捨てるように言いました。可愛らしい顔には、そんな渋い表情もまたよく似合うのですが。
王様は、先日の屈辱をはらせたことが嬉しくて仕方ありません。
「ああもうしばらくすれば、国中に僕のギターが鳴り響くんだね。最初はあの曲がいいかな、やっぱり記念に新曲を作ろうかな? うふふふ、待ちきれないね」
嬉しい時も、結局グダグダと喋り続けてしまう性分なのです。
「そうだ天使がモタモタしている時間を利用して、今のこの喜びをギターで伝えようじゃないか。いくよっ『歓喜のギターソロ』!!!」
すっかり興奮状態の王様は、そう言うと、その場でギターソロを始めてしまいました。
そのソロの長いこと長いこと~ちょうどお昼時。お腹がすいて、ふらつく家来も数知れず。ジョンぴーも、立ちくらみを起こしそうになりました。みんなの考えることはひとつ。「さっさと天使から巨人の名前を聞いてくれ!」でした。
「おう!!!!もう、いい加減にしろよっ てめえっ!!!話もギターも、なげーってんだよっ」
苛々しながら煙草をふかしていた天使が、遂に大声を出します。長いソロに根負けして、名前を教える気になったのでしょうか?
「・・・あんまりなげーから、巨人の名前をど忘れしちまったじゃねえか」
「・・・えーーーーーーっ(◎o◎;)」
その場にいた全員が叫びました。
「ど忘れって、どういうことだいっ」
歓喜のギターソロに陶酔していた王様も、さっきの天使のひと言でさすがに正気?に戻りました。
「嘘でしょう??天使さま!!冗談をおっしゃってるんですよねっ」
常にポーカーフェイスの大臣も、少しうろたえています。
「この期に及んで、ふざけるのもいい加減にしたまえ」
珍しく激しい口調で、天使に詰め寄る王様。それが更に天使の苛々に火をつけてしまいました。
「うっせえっ忘れちまったんだから、しょうがねえだろうがっ!!文句あんのかよっ!!!!!!」
天使は翼を広げて広間の天井近くまで飛び上がると、壁に貼ってある絵画を片っ端から蹴り落とし始めました。
「ぎゃーーーーーーっ(◎o◎;)」
次々降ってくる絵画に逃げ惑う人々。不思議と誰にも当たらなかったのですが・・。まだ治まらない天使は、遂にシャンデリアまで蹴り落としました。今度は運悪く、驚いて腰が抜けてしまった王様を直撃・・しそうになって、ギリギリで止まりました。さすがに人に当たらないような魔法がかけられていたようです。
「・・うっうっうわ~~~~っ怖かったよ~~っ(>o<)」
王様は恐怖のあまり、息も絶え絶え。慌てて駆け寄る大臣。
「大丈夫ですかっ!!!!王様~」
「・・うっうっう~な、なんなんだい、彼はっ!!死ぬかと思ったよ~」
王様の目には涙がたまっています。気丈な大臣は、こんな時でも力強く励ますのでした。
「王様!!こんなことで諦めてはなりません 王の威信にかけて、すぐに『どんなど忘れも楽々思い出せちゃうマシーン』を発明するのです~!!」
「・・・まったくタフだね、君は。繊細な僕にはついていけないよ。だいたい、あれはほんとにど忘れなのかい? どうしても意地悪にしか思えないんだけど」
「あの天使は、根本的に王様に逆らうことはできません(キッパリ)。前にも申し上げたように、自分が名付け親となった国王の願いを断った天使には、恐ろしい運命が待ち受けているのです。ふふふふふふ」
「・・でもでも、今、『どんなど忘れも楽々思い出せちゃうマシーン』なんか作ったら、どんな意地悪をされるかわからないよ。そうだ作曲の方を先に進めよう!僕の気持ちが落ち着くまで、しばらくそれに没頭させてよ~」
涙ながらに切々と訴える王様に、大臣も渋々頷くしかありませんでした。ジョンぴーが、横から遠慮がちに口を挟みます。
「・・あの~僕はこれからどうすれば~??」
「ああジョンぴー!」
大臣の了承を得て少し元気を取り戻した王様は、さっきまでより明るい声です。
「ちょうど良かった!次のマシーンを開発するまでの間、国民を代表して、僕の曲にアドバイスしてくれたまえ」
「・・はあ」
「ああ嬉しそうに微笑んでくれて嬉しいよ。きっと、さっきのギターソロが、君の心に感銘を与えたんだね!」
(・・・目一杯、困った顔してるつもりなんだけど?)
目一杯困っていても、とてもそうは見えないらしい自分の顔を、改めて恨めしく思うジョンぴーなのでした。
悩める天使
「・・・とまあ、大雑把にはこういうことだぜ」
話し終えた天使は、ジョンぴーのソファに寝そべりました。綺麗な青い目で天井を見つめながら、ぼそぼそと続けます。
「俺が伝説の巨人の名前をど忘れしたって言ったら、みんなが驚いて俺の方をいっせいに向くしよすげー非難のまなざしで見られて、さすがの俺も怖かったぜ」
「無理もないね」
隣に座った薔薇の精が呆れた声を出します。
「あ~あともかく君が巨人の名前をど忘れさえしなけりゃ、ジョンぴーは酷い目にあわなくてすんだんじゃないか」
「それについては、俺も悪いと思ってんだよ。あいつも早く故郷の家に帰りてーよなあ。子供たちにも会いてえだろうし・・。」
頭をかきむしりながら、起き上がる天使。しばらく黙りこんだ後、真面目な顔で続けます。
「・・・・実はよ・・。ど忘れしたっていうのは嘘で、名前を言えねえ事情があんだよ。」
ジョンぴーの憂鬱
天使が薔薇の精に、過去のいきさつを説明している頃・・。
ジョンぴーは、お城の奥にある仕事部屋に座っていました。この部屋は、ジョンぴーの仕事のために新しくしつらえられたもので、なかなか快適な環境です。自宅から持ち込んだ愛用のノートパソコンが、上質なデスクの上に置かれています。・・が、ここ何ヶ月というもの、ジョンぴーがこのパソコンを使う機会はありませんでした。
(もういい加減、次のマシーンの製作に取り掛かってくれないかなあ・・)
机の上にほお杖をついて、ため息をつきます。王様が原型さえ考えてくれれば、プログラムを完成させること自体はそう難しくはないはずです。ジョンぴーには、王様の要望に充分応えられるだけの腕がありました。
(ミーティングだけが日ごとに長くなるばかりだし(;-_-)o。もっとも、あれをミーティングと呼ぶならね・・)
ジョンぴーが二つ目のため息をついていると、王様と大臣が部屋に入ってきました。ミーティングの始まりです。
「おはようジョンぴー。今日は爽やかな天気だね」
王様がにこやかに挨拶してくれます。
「おはようございます」
立ち上がって挨拶を返すジョンぴー。
(・・悪い人じゃないんだけどなあ)
王様は知的な紳士で、ジョンぴーへの対応もとても丁寧なものでした。それについては感謝しています。ただ、いつまでたっても次のマシーンの製作を始めてくれないのが困るのです。そして、何より・・
「ふふふ昨夜は、午後3時のお茶の時間を知らせるのにピッタリな曲を作ったのだよ。聴いてくれるかい?」
「・・はあ」
なんとも答えようがなくて、ジョンぴーはいつものように気の抜けた返事をします。「もうやめて!!!」というセリフが喉元まで出てきましたが、なんと言っても相手は王様。面と向かって言うわけにはいきません。ほとほと困り果ててしまうジョンぴー。
ジョンぴーの苦悩をよそに、王様は愛用の赤いギターを抱えると、早速かき鳴らし始めました。
なるほど。みんながゆったりと過ごすお茶の時間にピッタリな、穏やかで美しいメロディ。
・・が、感心している余裕はありません。一度、鳴らし始めたら最後、このギターがなかなか終わらないのを知っているからです。この数ヶ月間、ずっと疲れているのは、毎日毎日ずーーっとギターを聴かされるせいなのでした。王様は既に陶酔状態に入っています。
(・・あーあお茶の時間を知らせてる間に、夜になっちゃいそうだよ(;-_-)o)
ジョンぴーは、そっと大臣に近づいて小声でいいました。
「・・あの~何度も言うようですけど、毎日こうしてギターを聴いてるだけなんて意味ないと思うんです。王様が『どんなど忘れも楽々思い出せちゃうマシーン』を開発する気になるまで、故郷に帰っててもい・・」
「駄目っ」
大臣が即座に却下しました。
「王様は、君の腕はもちろんだが、その安心感を与える温和なキャラクターも気に入っているのだよ。ニコニコ笑顔で、自分のギターを聴いてくれるなんて得がたい人材だからね!」
「・・に、ニコニコなんてしてませんけど」
大臣はチチチと指を振りました。
「甘いね!恐らく君自身は相当苦痛なのだろうが、傍目にはおっとりと笑っているようにしか見えないよ。こういうタイプは、わが一族に時々現れるのだ。負の感情が全く顔に表れない。むしろ、自然と笑顔になってしまう・・」
(そんなあ(>o<)・・)
ジョンぴーはがっくりきてしまいました。別に過去にこの顔で不便を感じたことはないけれど、今の場合は困ります。
「実は、私の父も君と同じタイプでね。人を安らがせる顔のおかげで、先代の王様に気にいられ引き立ててもらえたのだ。ほんとに君は、父の若い頃によく似ているよ。あっその茶色い髪は、私に似ているけどね。ふふふ、私も昔は君みたいにフワフワした長い髪をしていたものさ・・」
(・・・えっ??この大臣が??)
「今はほとんど面影は残っていないがね」
面影がほとんどない・・というより一本もない
(えーーーっ(◎o◎;)・・・ということは、僕の将来はもしや)
恐ろしい予感に慄然とするジョンぴーに、大臣は晴れ晴れと元気な声で言いました。
「ともかく!心配しなくとも、王様の国民みんなに聴かせたい病は、近々再発するであろう。今はあの天使に対するトラウマが癒えなくて、新しいマシーンを作る踏ん切りがつかないのだよ」
(・・トラウマが癒えるのに、どれだけかかるんだろう)
王様は、相変わらず自分の演奏に陶酔しきっています。二人の会話など全然聞こえていないのでしょう。その姿をチラリと見て、ジョンぴーは新たなため息をつきました。
天使の告白
「・・・・実はよ・・。ど忘れしたっていうのは嘘で、名前を言えねえ事情があんだよ。」
「・・えっ?」
思わぬ言葉に、薔薇の精は思わず天使の目を見つめました。
「実は、この巨人はよ。普通の人間に名前を知られたら、すぐ死んじまう運命なんだ。」
「・・・・」
「俺はこの巨人とは面識がねえ。でも、俺のせいで死なしちまうわけにはいかねーだろ? 片や俺の方も、王の願いは断れない。大臣の言ってる『掟』ってのは、ホントのことさ。その『掟』に逆らえば、未来永劫、人間界には出入り禁止になる」
「・・・・」
「あ~ これでも、けっこうシリアスに悩んでんだぜ、俺はよぉっ」
「・・・伝説の巨人の名前は、なんて言うの?」
ずっと黙って聞いていた薔薇の精が、思いつめたような声を出しました。いつになく真剣な様子に、天使の方がちょっと驚きます。
「ん? まっ、おめえは普通の人間じゃねえから、いいか。分かってると思うけど、ジョンびーや他の人間の前で口にするなよ。」
そして、天使は薔薇の精に、そっとその名前を耳打ちします。
薔薇の精は、正面を向いたまま無表情で聞いていました。しばらく、そのまま瞬きもせずに目の前の壁を見つめています。
やがて、フッと表情を柔らかくすると、少しおどけた調子で呟きました。
「・・・ふうん・・・」
【後編に続く】
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