よい子のQP童話「薔薇の精のハーブティー」【前編】
ウンザリするほど長いです。暇で死にそうな時に読んでね
モノローグ
僕は、昔から人間が大好きだったから・・
なんとかして仲良くなりたいと、ずっとずっと頑張ってきた。
でも僕は、好意をもった人には、バカみたいに際限なく親切にしちゃうタチで・・。される側にとっては、ほんとにもう暑苦しいほどさ。それに、僕はみんなとはやっぱり・・違っているからね。だから、いつだって最後には、とっても悲しい思いをすることになっちゃうんだ。同じことを何回、いや何十回繰り返しただろう?
僕はすっかり疲れてしまって、もう人間と係わるのは諦めようと決意したんだ。この庭の片隅で、こんな姿でひっそり静かに過ごしていこうってね。近くを通り過ぎる親子連れや、恋人達の楽しげな笑顔を眺めるだけの日々。それはそれで、穏やかで幸せだった。
これからも、ずっとそうやって生きていくんだと思ってたよ。そう、彼に会うまでは・・。
不思議な薔薇の精
長い長い仕事がようやく終わり・・。
ジョンぴーは、家への道のりをいつもの様にトボトボと歩いていました。
(いつになったら、この仕事を終えて故郷へ帰れるんだろう?)
ため息をひとつついて立ち止まります。今の仕事のために故郷を離れ、首都で一人暮らしを始めてから、もう半年。その間、家族にも会っていません。
(・・子供たちが僕の顔、忘れちゃうよ)
ジョンぴーがうなだれていると、どこからかほのかに甘い香りが漂ってきました。
(・・あれ?薔薇の香り??)
香りの出どころを探して、あたりを見回します。すると、道路沿いの家の庭に、美しい薔薇の花がたくさん咲いているのが目に入りました。毎日通っている道なのに、いつもは全く気付いていなかったようです。
(うちの庭の薔薇も咲いてるかな)
ジョンぴーは、故郷の家を思い浮かべました。家族が待つ故郷の家。庭には小さな薔薇園があって、今頃はここに負けないくらい、たくさんの花が咲き誇っているに違いありません。
目の前の薔薇たちは、疲れたジョンぴーを慰めるように、甘い香りを更に強く漂わせています。その香りに包まれていると、少しだけ元気が出てきました。そして、ひときわ見事に咲いている白い薔薇に、そっと声をかけます。
「君は、とっても綺麗だね」
白い薔薇が嬉しそうに頷いた様に見えたのは、気のせいでしょうか?
薔薇から離れ、またトボトボと歩き出すジョンぴー。
あれ?後から黒い大きな影のようなものがついて来ているようですが??
「さっきから、誰かに見られてる気がするんだけど・・?」
黒い影に気付かぬまま家の前に到着したジョンぴーは、首を傾げました。
「疲れてるせいかもしれないなあ」
呟きながら、ドアを開いて部屋に入ると・・
「やあお帰りなさい」
聞いたことのない声に出迎えられて、ビックリしました。
「えっ(◎o◎;)誰っ???」
気付けば、目の前に見も知らぬ若い男が立っていました。夜のような黒髪で、ちょっと怖いくらい彫りの深いその男は、ジョンぴーを見て嬉しそうな笑みを浮かべています。
「・・・あの~君は???」
「う~んとね。僕は薔薇の精なんだよ。さっき、白薔薇の姿になっていたら、君が綺麗だって褒めてくれたから、早速お礼にきたのさ。こう見えて、割とせっかちなタイプだから」
「・・・はあ」
「僕は、人から褒められるのが大好きなんだ とってもロマンチックな気分になれるからね」
自称薔薇の精は、瞳を輝かせてうっとりと答えました。喋るたびに目も歯もキラキラしています。戸惑いながらもジョンぴーは、その表情から何故だか目が離せません。
「なんだぁ?その胡散くせー野郎はぁ??」
部屋の奥から、また違う声が聞こえました。こちらは馴染みのあるハスキーな声です。
「薔薇の精にしちゃあ、えらくコワモテじゃねえか」
言いたいことを言いながら缶ビール片手に出てくるのは、美しい金髪の若者です。ハスキーな声からは想像できない可愛らしい顔立ち。そして、その背中には、なんと羽が・・
自称薔薇の精が、ムッとした様子でジョンぴーに訊ねます。
「この失礼な男は誰だい?? だいたい、僕の調査では君は一人暮らしのはずだよ」
(・・いつの間に調査されたんだろ)
ジョンぴーは驚いて、目を白黒させました。玄関から居間に向かうと、二人ともついてきます。
「えーっと・・。彼は、天使なんだよ。なんでも、王様の名付け親なんだって。今度の仕事が縁で知り合ったんだけど、いろいろトラブルがあって・・。で、時々ここに様子を見にきてくれるんだ」
「ふーん、なんだか胡散臭いねえ」
薔薇の精は、さっきの仕返しとばかりに皮肉たっぷりに続けます。
「僕は生の天使を初めて見るけど、もっとお上品なものだと思ってたよ(つん)」
「うっせーんだよっ!てめえ」
気が短い天使は、額に青筋をたてています。
「ともかく」
カンカンに怒っている天使を軽く無視して、薔薇の精がジョンぴーに話しかけました。大きな目で覗き込まれて、ジョンぴーはどぎまぎしてしまいます。
「お礼に、今日からこの家で君のお世話をさせてよ一人暮らしで寂しいってこと、ちゃんと知ってるんだ」
「・・・はあ」
「はっきり断れジョンぴー。だいたい、おめえの顔は拒絶の表情が分かりにくいんだからよぉ」
「もうっ!品行下劣な天使は黙っててよ」
「うるせえっ」
薔薇の精と天使は、今にもつかみ合いになりそうです。それを見ながら、ジョンぴーは自分がとても疲れていたことを思い出しました。遠慮がちに口を開きます。
「・・あの~とりあえず、今日は眠らせて欲しいんだ。仕事でとっても疲れちゃって・・」
それは本当でした。このところ毎日仕事が長引き、家に帰ればクタクタになって眠るだけなのです。余りに疲れすぎているせいか眠りが浅く、朝になっても体力は全然回復しないのですが・・。この数ヶ月は、ゆっくりと気持ちよく眠ったことなんてない気がします。
「きゃっ大変(>o<)」
薔薇の精が慌てて叫びました。
「早く横にならなきゃ! ほらあ、余計な奴が割り込んでくるから、ジョンぴーが疲れちゃうじゃないか」
と言いながら、天使を睨んでいます。
「・・割り込んできたのはそっちじゃねえかよっ」
都合の悪いことは聞かない主義なのか、薔薇の精はまたまた天使を無視して、ジョンぴーをベッドに寝かしつけました(「着替えたいんだけど 」by ジョンぴー)。自分は枕元に陣取ります。
「眠る前に、このお茶を飲めばいいよ(^^)」
どこから降ってわいたのか、枕元には高級なカップに入ったいい香りのお茶が湯気をたてています。
「特製カモミールティーだよ 安眠作用があるから、ストレスがとれてゆっくり眠れるんだ」
「ふーん・・」
ひと口飲んでみると、甘い香りが口の中に広がりました。そして、今まで飲んだカモミールティーより、ずっと美味しく感じられます。とても深い味わいなのに、くどくない。飲み終えたあとは、何かが身体を包み込んでくれているような、とても安らいだ気分になりました。
「・・・なんだか、いい気持ち」
今にも眠りに引き込まれそうです。心配した天使が薔薇の精に食ってかかる声が、遠くに聞こえます。
「おい!!てめえ!!!なんか、怪しいクスリでも飲ませたんじゃねえだろーなっ」
「そんなわけないでしょ(つん)。君もついでに飲んでみるかい?」
「けっ天使がお茶なんか飲むわけねーだろっ!(ビールは別だけどよ)」
「しっ!静かにして ジョンぴーが眠りかけてるのに・・
How I still love you-I still love you・・・・・」
薔薇の精は、枕元でそっと歌い始めました。その声の美しいこと! 半分夢の中で聴いているジョンぴーにも、この声が普通の美しさでないことは分かりました。
(・・なんて綺麗な声なんだろ。明日の朝、褒めてあげなくちゃ・・むにゃむにゃ)
そして、そのまま久々の心地よい眠りに落ちていきました。
爽やかな目覚め
次の朝の目覚めは、本当に久しぶりに爽やかなものでした。一晩で、いままでたまっていた疲労とストレスが、霧のように消え失せた気がします。外もスッキリした、いいお天気。まだ、いつもより早い時間でしたが、ジョンぴーは嬉しくなって起き上がりました。
とりあえず何か食べようと台所に向かうと、リビングのソファで昨夜の「薔薇の精」がスヤスヤと眠っているのが目に入りました。
(はっ薔薇の精!! 夢じゃなかったんだ)
昨夜の不思議な出来事を思い出して、改めて戸惑ってしまいます。
「けっ気楽に眠ってやがるぜっ!」
ハスキーな声に振り向くと、いつの間にやら天使がそばに立っていました。
「この野郎、やっぱりかなり怪しいぜ。あれから調べたら、『薔薇の精・名鑑』には、こんな奴は載ってねえし・・」
「・・そ、そんなものがあるの??」
「おそらく大嘘だぜ どういう魂胆なんだ??」
(・・そんな悪い人には思えないんだけど)
とても美味しいカモミールティー。そして、あの美しい歌声。自分がたった一晩で信じられないほどリフレッシュできたのは、どう考えてもそれらのおかげなのです。
「ともかく何か食べるよ」
ジョンぴーは、そう言って、台所に向かいました。
「うわ~美味しい!!ジョンぴーはお料理が上手だね」
薔薇の精が目をキラキラさせながら、ジョンぴーの作った朝食をたいらげていきます。
「おめえよぉ」
その様子をさも不機嫌そうに眺めながら、天使が言いました。
「別に信じたわけじゃねえけど、『お礼に君のお世話をさせてよ』とか言って、この家に上がりこんだ癖によっ!のんびりメシなんか食わせてもらってんじゃねえよ」
薔薇の精がすまして答えます。
「いいじゃないか(^^)。出来る人がそれぞれ出来ることをすれば。世の中それが一番スムーズにいくんだよ」
「なに、都合のいいこと言ってやがんだっ」
朝からエキサイトする天使。ジョンぴーが見かねて、宥めました。
「・・あの・・ほんとにいいんだ。元々、お料理は好きだから。いつもは疲れてるし一人だし、全然作る気になれないんだけど、今日は一緒に食べてくれる人がいて嬉しいくらいなんだ(*^^*)」
「ほら、ごらん(つん)。怒鳴ってばかりいないで、君もご馳走になったらどうだい?」
「天使が朝メシなんて、食うわけねえだろっ(ビールは別だけどよ)。だいたい、おめえは何者な・・」
「さっお腹もいっぱいになったし・・」
まくし立てている天使を、またまた軽く無視して、薔薇の精はジョンぴーに微笑みかけました。
「今日も一日、元気でお仕事できるように、これを飲んでいくといいよ」
見れば、またまたどこから降ってわいたのか、テーブルの上に昨日とは違う香りのお茶が湯気をたてています。カップも昨日とは違うけれど、こちらも見ただけで上質なものだとわかりました。
ジョンぴーはカップを手にとってみます。
「わ~いい香りだね」
若葉の季節のようにスーッと爽やかで、そしてとてもとても甘やかな香り。確かにこれを飲めば、一日元気に仕事が出来そうな気がしてくるのでした。
「ふーん・・、確かにいい香りだぜ」
天使まで、鼻をピクピクさせています。
「特製ミントティーさ。ジョンぴーは、とっても疲れるお仕事みたいだから、ちょっと濃い目にいれてあげたよ」
「仕事自体は嫌いなわけじゃないんだけど・・」
言いながら、ジョンぴーはミントティーを口に含みます。途端に甘い清涼感が体中を駆け巡ったように感じました。
「ありがとうなんだか、仕事も頑張れそうだよ」
「そうだといいね(^^)」
薔薇の精が、にっこりと微笑みました。
心やすらぐひと時
その日の長い仕事も、ようやく終わりました。ジョンぴーは、また疲れきった気分で家への道を歩いていました。今日の朝、薔薇の精の美味しいミントティーを飲んだのが、遠いことに思われます。
(朝は元気だったのに・・。結局いつもと同じくらい疲れちゃったなあ)
昼も夜も豪華な食事が出るのですが、仕事の苦痛のために、あまり美味しく感じられません。
(薔薇の精・・、もう帰っちゃったかな?)
家にたどり着き、どきどきしながらドアを開けると・・
「ジョンぴーおかえり~\(^O^)/」
リビングのソファに座っていたらしい薔薇の精が、とんできました。本当に嬉しそうなその様子に、ジョンぴーの心も温かくなります。
「・・まだ、いてくれたんだね」
薔薇の精の顔を見た途端、1日の疲れが吹っ飛んでいく気がしました。昨日初めて会ったばかりなのに、ジョンぴーはこの怪しげな青年のことがすっかり好きになってしまったようです。
「へっ、この野郎ときたらよっ!すっかりここに居つくつもりでいやがるんだぜ」
呆れた顔をした天使も出てきました。
「おめえが留守の間に、こいつがヘンなことしねえか見張っててやったぜ」
「ふ~んだ君だって、人の家で勝手にビール飲んで、ガーガー寝てたじゃないか」
薔薇の精がふくれています。しかし、ジョンぴーの疲れた様子に気がついたのか、心配そうな声で言いました。
「ジョンびー?今日もまた一段と疲れてるみたいじゃないか そんなに人使いが粗い職場なのかい??」
「人使いが粗いっていうのとは、ちょっと違うんだけど・・」
「ともかく、お茶を飲んで早くお休みよ」
気付けば、ベッドサイドにまたいい香りのお茶が湯気を立てています。
「今日はローズピンクにしてみたよ(^^)」
そう言いながら薔薇の精は、ジョンぴーをベッドに連れて行きました(今日も着替えられないのかby ジョンぴー)。自分はまた枕元に座ります。
ローズピンクティーは、とても気持ちが安らぐ香り。ジョンぴーはゆっくりと飲み干して、横になりました。
(今夜もゆっくり眠れそうだな・・むにゃむにゃ)
半分夢の中のジョンぴーの耳元で、薔薇の精がまたそっと歌い始めます。昨日と同じように、それはそれは美しい声でした・・
そのようにして、毎日が過ぎていき・・
薔薇の精がジョンぴーの家に転がりこんでから、2週間がたちました。なんだかだと言いながら、天使もあれからずっと入り浸っています。
(薔薇の精が来てから、ほんとに朝の目覚めが良くなったな)
台所で朝食を準備しながら、ジョンぴーは微笑みました。天使は文句を言うけれど、相変わらず朝食を作るのはジョンぴーの仕事です。でも、それがとてもいい気分転換になっているのでした。仕事に行くとやっぱりクタクタに疲れきってしまいますが、薔薇の精のハーブティーがその疲れを癒してくれます。
そして何より薔薇の精や天使と過ごす、朝と夜のひと時。これが自分でも不思議なくらい、心やすらぐものなのでした。
「美味しかった~やっぱり、ジョンぴーの朝食は最高だね(^^)」
お腹を満足げにさすりながら、薔薇の精がニコニコしています。
「朝から呑気な野郎だぜっ」
朝のビールを飲みながら、天使が鼻を鳴らします。薔薇の精は、それを軽く無視して、いつものようにハーブティーを用意しました。
「今朝はオレンジピールだよ」
甘やかなオレンジの香りが、部屋中に広がります。
「でも・・」
薔薇の精が、ジョンぴーの顔を覗き込んで言いました。
「ジョンぴーは朝は元気そうなのに、帰ってくるとやっぱり疲れきってるね。そんなに嫌なお仕事なの??」
「う~ん・・・本来の仕事が出来ないから辛いんだ」
ジョンぴーが小さい声で答えると、横で天使が呟きました。
「ちっ相変わらずみたいだな。王のヤツはよ」
忌々しそうに舌打ちしています。それを聞いた薔薇の精は、ちょっと驚いたようでした。
「王? ジョンぴーは王様のお城で、お仕事してるのかい?」
「そうなんだ。ことの始まりは、王様が・・」
説明しようとしたジョンぴーを天使が制します。
「俺が代わりに話しといてやるぜ。ジョンピーは出かける時間だしよ」
そして、薔薇の精の方に向き直り、ふんぞりかえって続けました。
「分かりやすく話してやるから、ありがたく聞けよっ!! 半年前のある日、王のヤツがよ・・」
【中編に続く】
| 固定リンク