よい子のQP童話「薔薇の精のハーブティー」【後編】
ウンザリするほど長いです。暇で死にそうな時に読んでね
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天使が薔薇の精に、「ど忘れ」の秘密を打ち明けた次の朝・・。
そんなことは知らないジョンぴーは、今日も気分よく目覚めました。薔薇の精が朝晩飲ませてくれるハーブティーのおかげか、このところ体調はすこぶる良好です。仕事は相変わらず疲れますが、朝になればスッキリしているのです。
(・・さすがに買いすぎちゃったかなあ)
昨日の帰りにどっさり買い込んできたある食材を眺めて、ジョンぴーはちょっと冷や汗をかきました。
(あまりにショックで、発作的に買い込んじゃったから( ̄▽ ̄;A)
手早く調理した朝食を盛り付けていると、薔薇の精が起きてきました。いつもは、ジョンぴーに起こされるまで、ソファで眠っているのに・・。
「おはよう今朝は早いね。どうしたの?」
驚いているジョンぴーに、薔薇の精はいたずらっぽい目をしてみせます。
「うふふ。ちょっとみんなで写真を撮りたいなと思ってね・・」
「写真?」
「うん(^^)カメラも用意したんだよ」
そう言って、薔薇の精が出してきたのは、古いポラロイドカメラでした。
「なんだよ!その古くせーカメラはよぉ」
いつの間にか現れた天使も、カメラを覗き込んで呆れています。薔薇の精がつんとすまして、言いました。
「ちゃんと写るからいいんだよ さあ、3人で記念撮影しよう。時間がないから、早く並んで並んで」
ジョンぴーを真ん中にしてみんなを並ばせると、薔薇の精はポラロイドカメラを軽く上に放り投げました。カメラは3人の正面まで飛んでいき、顔の高さあたりで停止しました。
カシャっ
シャッターが押されたようです。薔薇の精たちと一緒にいると、この手のことはもう不思議だと思わなくなっています。
(変な話だよね)
ジョンぴーは、心の中でくすりと笑いました。そして、このおかしな二人との暮らしを本当に楽しいものと感じている自分に、改めて驚きました。もちろん故郷の家族は恋しいけれど、もうしばらくこんな暮らしが続いてもいいなと、思ってさえいるのです。
「ほら綺麗に写ったよ」
薔薇の精が、カメラから飛び出してきた写真をみんなに見せました。言葉のとおり、3人の幸せそうな笑顔がイキイキと写し出されています。
「場所かえて撮るかあ?」
カメラをけなしていた割には、天使も嬉しそうです。
「ダメダメ!ジョンぴーが遅刻しちゃうから、早く食べなきゃ!」
そう言って薔薇の精が、ジョンぴーをテーブルに座らせます。そして、並べられた朝食を見て、不思議そうな顔になりました。
「どれもとても美味しそうだけど・・。なんで、今日はワカメ料理ばかりなんだい??」
「いやあ、ちょっと~(*^^*)」
朝食後は、いつものようにいい香りのハーブティーを・・。ジョンぴーはとても穏やかな気持ちで玄関を出て、お城への道を歩き始めました。
すると
「ジョンぴーーーっ!!!」
後から、薔薇の精が追いかけてきます。
「どうしたの?」
ジョンぴーが訊ねると、薔薇の精はちょっと恥ずかしそうに笑いました。
「今日は僕もお城に連れてってほしいんだ」
「・・お城に?」
「うん。ジョンぴーを早く故郷に帰らせてくれるよう、僕から王様に頼んであげるよ(^^)」
「えっ??でも、そんなこと無理じゃ・・」
ジョンぴーがためらっていると、薔薇の精は任せておけ!というように頷きました。
「大丈夫大丈夫僕には切り札があるから・・」
そして、キラキラ光る瞳でジョンぴーの顔をじっと見つめてから、うつむいて続けました。
「僕はね。人間が大好きだから、いつも友達になりたくて仕方なかったんだ。」
長い睫毛が、わずかに震えています。
「でも、このとおり、ちょっと変わってるからね。なかなか上手くいかないのさ・・。ジョンぴーみたいに仲良くしてくれる人、初めてだったよ」
「薔薇の精・・??」
なんだかいつもと違う様子にジョンぴーは、どう言葉を返していいかわかりません。
「ジョンぴーが毎日朝晩この道を通るのを、僕はずっと見てたよ。とても疲れてる足取りなのに、いつも静かに微笑みながら歩いてた・・」
(・・・や、やはり笑っていたのか( ̄▽ ̄;A)
「こんな優しそうな人が、どうして毎日毎日疲れてるんだろう。ずっと、気になってた・・」
そこまで言って、薔薇の精は顔を上げてにっこりしました。
「さあ、行こう!!きっともうすぐ家族に会えるよ」
薔薇の精VS王様
お城に着くと薔薇の精は、ジョンぴーに先に入るよう促しました。
「僕が一緒だと怪しまれちゃうからね」
と言って、ウインクします。
どうするつもりだろうと思いながらも、ジョンぴーは門の中へ。顔なじみの門番に会釈して、お城の奥へと向かいます。中庭を突っ切ろうとした時、薔薇の精がすました顔で立っているのを見つけました。彼には、きっとこれくらい朝飯前なのでしょう。お城の中を、もの珍しげに眺めまわしています。
「ふ~ん。素敵なお城だね。王様の趣味は悪くないね」
「今の王様が建てたわけじゃないよ」
二人が話していると、王様と大臣が通りかかりました。いつもの通り、ジョンぴーの仕事部屋に向かう途中だったのでしょう。大臣は薔薇の精の姿を見つけて、ギョッっとしたようです。
「お、お前は何者だっ!!!!ジ、ジョンぴー、なんなんだ?この男は??」
「・・えっと、その~僕の友達です」
「そ、そんな得体の知れない人間を勝手にお城に入れては困るじゃないかっ!!」
大臣の声は、驚きと怒りでうわずっています。ノンビリした顔で、王様が宥めました。
「まあまあ・・。ジョンぴーの友達ならいいじゃないか。そうだ君も一緒に、僕のギターソロを聴いてくれたまえ!!」
「王様っ!呑気なことを言っている場合では、ございません~っ!!!!」
薔薇の精は、王様と大臣の様子を面白そうに眺めています。そして、王様の前にスッと移動すると、優雅にお辞儀をしました。
「王様、お初にお目にかかります。私は『薔薇の精』と名乗っている者。訳あって、すぐには本名を申し上げることができませんが・・」
まるで歌うようになめらかに話す、薔薇の精。こうして見ると、まるで貴族のように品が良いのです。ジョンぴーも、思わずうっとりしてしまいました。
「う、うむ・・」
薔薇の精の気品に気おされたのか、王様の方がたじろいでいます。
「今日は、ジョンぴーを早く故郷に帰らせてやりたくて、友人としてお願いに参りました」
「う、うむ・・。て、天使が例の伝説の巨人の名前を忘れてしまって、僕も困っているのだよ。出来れば、彼とはしばらく係わりたくないし・・」
「ちなみに、王様は天使が怖くてトラウマになっているのだ!」
「君は黙っていたまえっ」
大臣の余計な補足に、王様が小声で抗議します。薔薇の精は、艶然と微笑みました。
「ご安心を。巨人の名前ならば、私が存じておりますゆえ・・。今ここで、ジョンぴーを故郷に帰してくださるならば、それを見届けた後、すぐにお教えいたしましょう」
薔薇の精が、伝説の巨人の名前を知ってる?? ジョンぴーは驚きました。
「ジ、ジョンぴー!彼の言ってることは本当なのかね??」
王様が叫びます。大臣は、王様と薔薇の精の間に身体を割り込ませました。
「王様!どこの誰ともわからぬ男の言葉、信用してはなりません」
「だって~。あの怖い天使に聞かなくても、巨人の名前がわかるなんて凄いじゃないか」
王様は完全に興奮しています。その時・・
「何を勝手なこと、言ってやがるっ」
頭の後ろから、聞きなれたハスキーな声が! ジョンぴーが振り向くと、天使が仏頂面で立っていました。
薔薇の精VS天使
「きゃ~~っ(>o<)出たあ~~」
「王様、しっかり!!」
思わず中庭の向こう側まで、全速力で避難した王様と大臣。そんな二人には目もくれず、天使は真っ直ぐに薔薇の精に向かってきました。歩くたびに全身から怒りがあふれ出してくるようです。こんなに真剣に怒っている彼は見たことがありません。
「おいってめえ・・。出かけたきり帰ってこねーから、まさかと思ったら・・!」
薔薇の精を睨みつけながら、そう言いました。いつもの威勢の良さが嘘のように、その声は細くかすれています。でも、それが返って天使の怒りの深さを感じさせるのでした。
「・・・」
薔薇の精は、無言で天使を見つめています。その口元は、微かに笑っているように見えますが・・。
「誰にも言うなって言ったよな!・・この野郎俺がどんな気持ちでど忘れした振りをしたてと思ってんだっ!!!」
かすれる声で、続ける天使。その言葉を聞いて、王様と大臣が目をみはりました。
「ど忘れした振りだって??」
「どういうことです!!天使さまっ!!」
二人が、避難した中庭の隅から戻ってこようとすると
「うるせえ外野は黙ってやがれっ!!!!」
天使が大きな声で怒鳴りました。王様たちは、驚いて踏み出した足を引っ込めます。ジョンぴーはただただ息をつめて、ことの成り行きを見つめるしかありませんでした。握り締めた両手が、汗でびっしょりです。
「・・僕は」
黙っていた薔薇の精が、口を開きました。その声はやはり楽しそうです。
「僕はジョンぴーが幸せになれれば、他のことはどうでもいいんだよ」
「なにをーっ!おめえを信用して教えたのにっ・・」
怒りのためか、天使は小さく震えています。その顔を覗き込んで、薔薇の精はニヤリとしました。
「ふふふそんな名前、昔からよく知ってたさ」
「・・なに??」
薔薇の精の秘密
「さて王様!!それに大臣さま!」
天使にくるりと背中を向けると、薔薇の精は遠くに逃げてしまった王様たちに呼びかけます。
「改めて伺います。このまま、ジョンぴーを故郷に戻してやって頂けますか?」
その言葉に、我にかえったように王様が言いました。
「そ、そうは言っても、君の教える名前が本物かどうか判断できないじゃないか」
「そうだとも!何か本物だという証拠があるのかね?」
すかさず大臣も王様に加勢します。薔薇の精は、二人に向かって大きく頷きました。
「・・では、これからここで証拠をお見せ致しましょう」
そして、自分の後ろにいたジョンぴーを振り返ります。
「ジョンぴー!危ないから、もう少し離れて。王様たちが納得したら、大急ぎでここを抜け出すんだよ(^^)」
そう言って手を振ると、薔薇の精はいきなり地面を蹴って、ふんわりと高くジャンプしました。そして・・。
「ばろ~~むQ~っ!!!!!!」
中空にピタリと停止すると、歌うようにそう叫んだのです。その瞬間に、薔薇の精の身体は、キラキラした白い光で覆われました・・・。そこにいる全員が唖然としています。
「ば、ばろむQ・・あいつが、そうだったのか!」
天使が小さく唸りました。
「・・でも、そしたらあいつはよぉ・・・・!!」
突然のお別れ
薔薇の精を包み込んだ白い光はどんどん大きくなり、はるか上空まで伸びていきます。みんながあっけにとられて見守っていると、一瞬すさまじい突風が吹き、同時にパッと光が消えました。そして、そこには・・・。
「で、伝説の巨人っ!!!!」
王様と大臣が同時に叫びました。そうです!!薔薇の精は、丘のように大きな巨人に変身していたのです。洋服は、鳥の翼を連想させるヒラヒラした白いブラウスに変わっています。その様子は、王様が図書室で見つけた伝説の巨人の絵姿そのままでした。
「で、でも、絵姿よりずいぶん怖い顔じゃないかい??」
「きっと、美化しないと何されるかわからなかったからでございましょう」
ひそひそ話す、王様たち。
(薔薇の精が伝説の巨人??そんなことって・・)
ジョンぴーは混乱で頭の中が真っ白です。でも、目の前の巨人の顔は、薔薇の精に違いありません。濃いメイクをほどこしているせいか、普段より更に彫りが深く見えます。
「納得していただけましたか?王様」
薔薇の精、いや伝説の巨人が静かに言いました。空の上から聞こえるその声は、意外と柔らかく響きます。
「私があなたがたの言う伝説の巨人、ばろむQでございます」
ばろむQは、その場にそっとひざまずいて、王様の顔を見つめました。王様は逃げ腰です。
「わっ(◎o◎;)、あんまり見ないでっ!!怖いから~っ」
「王様っ!!失礼なことを言うと、食われますよ」
日頃冷静な大臣も動転しているようです。
「けってめえらなんて、食うわけねーだろうがよっ」
パニック状態の王様たちを冷たい目で見ながら、天使が巨人の前に進み出ます。
「あほかおめえ!!こんなヤツらに名前を教えちまってよぉ」
「うふふ」
薔薇の精が微笑みました。笑うと人懐こい瞳は、巨大化しても変わりません。
「それに、なにを気取ってバカ丁寧に喋ってやがんだ」
「ふふだって、僕はロイヤルファミリーなら、たとえどんな人でも大好きなんだもん」
「ミーハーかよっ!!相手選べよな」
天使の声には、少し元気が戻ってきたようです。二人の会話を聞いていた王様が呟きました。
「・・なんか、とても侮辱されてる気がするんだけど~」
「聞き流すのです王様!!文句を言うと食われますよっ」
食われる恐怖から、どうしても離れられない大臣。そんな彼に、薔薇の精の声がかかりました。
「ところで大臣さま!!」
「・・はっ、はいっ!(◎o◎;)」
大臣は驚いて、思わず後へ3歩下がってしまいます。薔薇の精は、穏やかな調子で続けました。
「あなたのおっしゃる方法では、残念ながら、王様が巨大化することは出来ないのです。生身の人間が巨大化できるのは、瓜二つの二人が合体する時だけでございます」
「えーーーーーっ!!!!」
その場にいた全員が叫びました。王様はショックで、がっくりと膝をついています。
「そ、そんなっせっかく名前がわかったのに・・!。僕と瓜二つの人間なんているわけないよ」
今にもおいおい泣き出しそうな王様を、大臣が力強く慰めました。彼は本当に立ち直りが早いのです。
「王様!!諦めることはございません。いま初めて申し上げることですが、実は王様には生き別れになった双子の弟君がいらっしゃいます。王家で双子を育てるのはタブーとされるこの国の慣例に基づき、当時大臣だった私の父がいずこかへ養子に出したのです」
「えっ??そうなの」
王様の声がはずみました。ジョンぴーと天使は、顔をみあわせます。
「そんなご都合主義な話があるかよっこの童話はもう破綻してるぜ!」
(・・同感(;-_-)o)
そんな二人の心中に気付いているのかいないのか、王様たちはますます盛り上がっていきました。
「残念ながら、弟君がどこの国に養子に行ったのかは亡き父しか知りません。しかし、諦めずに世界中を探せば、必ずや見つかりましょう」
「うんうん(^^)v。そうだ探すのを天使に任せるのは、どうだい?? 人間の手で探すより、きっとずっと早いに違いないね」
喜びの余り、天使へのトラウマも忘れ、勝手なことを言い出す王様。
「馬鹿野郎っ!!!!勝手に決めるんじゃねーぜっ」
天使が、ドスのきいた声で怒鳴りました。薔薇の精は、やれやれという表情になります。
「まあまあほんとに気が短い天使だね」
そして、王様たちの方に向き直りました(怖いんだけど~by 王様)
「・・さて!それでは、王様。参考までに申し上げておきましょう。瓜二つの人間が見つかったあかつきには、二人で同時に斜めにジャンプして、上空でクロスするのです。早い話がエックス攻撃でございます。これは『誰でも楽々高くジャンプするよ~マシーン』を流用できるはず・・。そうだよね?ジョンぴー」
「うん!最初にジャンプしたい方向だけ決めて、地面を蹴ってもらえれば大丈夫。ジャンプした後は、やっぱりちょうどいい場所で勝手にとまるよ。」
急に話をふられて、ジョンぴーは一瞬たじろぎましたが冷静に考えて答えました。薔薇の精は満足そうに頷きます。
「・・・だそうでございます、王様。そして、もう一つ。王様が巨大化する際には、『ばろむQ』の後ろにセカンドネームをくっつけて、新しい名前に変えてやる必要がございます。セカンドネームには制約はありません。好きな名前を考えていただければ宜しいかと・・」
「セカンドネームかあ。どう思う?大臣」
「国民から公募いたしますか?王様」
あくまでウキウキ気分の王様たちは、楽しそうに相談を始めました。薔薇の精は、しばらく二人をにこやかに見つめた後、ジョンぴーに視線を向けました。
「さあ、ジョンぴー。あれを・・」
と言いながら、少し先の地面の上に置かれたものを指差します。ジョンぴーが近づいてみると、それはジョンぴー愛用のパソコンでした。故郷から持ってきて、お城の仕事部屋で使っていたものです。いつの間にとってきたのでしょう?
「早くそのパソコンを持って、故郷へお帰り。ぐずくずしてると、また帰りにくくなっちゃうからね(^^)」
大きな身体でジョンぴーの顔を覗き込むようにして、優しく言います。
「僕はもう時間がなくて送ってあげられないけれど・・。天使に送ってもらえばいいよ」
「おう俺が送っていきゃあ、アッという間だぜ!!」
天使が得意そうに鼻をうごめかせました。ジョンぴーは、思わず薔薇の精を見つめます。
「・・あの・・薔薇の精!!」
「・・・その名前は嘘なんだよ。本当はこんな姿なのさ。隠していてごめんね・・」
ちょっと悲しげな顔になる薔薇の精。
「あの絵姿が描かれた年はね。国中でひどい天災が相次いで、作物が全然育たなかったのさ。あの年、僕は首都に近い小さな村で人間として暮らしていたんだけれど、その村のみんなもとても疲れてた」
「僕はみんなを元気付けてあげたくて、どうしようか考えたよ。そして、村の人全員に聴こえるよう、本来のこの大きな姿に戻って歌を歌ったんだ・・。みんな、その時は喜んでくれたけど、次の日からだんだん僕を気味悪がるようになったよ。自分の正体が人間とは全然異質の生き物だってことをあかしちゃったんだもの、仕方ないよね。結局僕はいたたまれなくなって、数日後に村から姿を消した・・」
「・・そんなこと・・!どんな姿でも薔薇の精は薔薇の精だよっ!!」
ジョンぴーは、必死で叫びました。
「そりゃ、しばらくはぎくしゃくしたかもしれないけど・・。きっとみんな、僕と同じように君の事が大好きだったんだよ。それでなかったら、あんな素敵な絵姿が残っているはずないじゃないか!!!」
「ジョンぴー・・」
薔薇の精の頬を、涙が一筋流れ落ちていきます。
「・・ありがとう。3人の暮らしは楽しかったね(^^)」
(やっぱり怖いんだけど~by 王様)
「うん・・で、でも」
永遠の別れのような薔薇の精の言葉に、ギクリとするジョンぴー。
「僕が故郷に帰っても、また会える・・よね??」
ジョンぴーの胸は悪い予感で張り裂けそうです。薔薇の精は、涙をぬぐいながらにっこりしました。
「うん!・・そのうち、きっとね」
そう言ったと同時に・・。薔薇の精の姿はふっと消えてしまいました。
帰郷
「さあ・・!帰るぜ、ジョンぴー」
薔薇の精が消えて呆然とするジョンぴーを、天使が優しい声で促しました。
「う、うん」
答えながらも、ジョンぴーは何も考えられません。
「はっお待ちください!天使さま!!」
「そうだったちょっと待ってくれたまえ!!」
薔薇の精が突然消えて、同じく呆然としていた王様たちが、はっと我にかえったようです。
「ジョンぴーを送っていく前に、僕の双子の弟を探してくれないかい?」
「そうですとも!巨人の名前をど忘れしたなんて嘘をついてたんですから、今度は働いて頂かないとと困りますよ」
口々にわめき始めるのを聞いて、それまで穏やかだった天使の顔が、一転怒りの表情に変わりました。
「うっせーんだよっ!!!!てめえらの頼みなんて、もう金輪際きかねえからなーーーーっ」
大きな声で怒鳴っただけでは足りなくて、ちょうど目の前にあった花壇に蹴りをいれています。
「ぎゃ~~トラウマを思い出しちゃうじゃないかあ」
「よろしいのですか?天使さま!そんなことを言えばあなたは・・」
まだ騒いでいる二人を完全に無視して、天使はジョンぴーに声をかけました。
「パソコンを落とすんじゃねえぞ!」
そして、パソコンを持っていない方のジョンぴーの手を軽く握ると、翼をひろげて大空に飛び上がったのです。ジョンぴーも一緒に空を飛んで行きます。とてもインパクトのある経験のはずですが、薔薇の精が消えたショックから立ち直れないジョンぴーには、なにか夢の中の出来事のように思われるだけでした。
天使が言ったとおり、アッという間に故郷の家に着きました。天使は、玄関から少し離れたところに着地します。
「いきなり空から帰ってきたら、家族が卒倒しちまうからな」
一人でにやにや笑っています。そして、ジョンぴーの肩を叩いて言いました。
「元気出せって!!ヤツが言ったとおり、またそのうち会えるからよ」
「・・いつ・・??」
思わず問いかけるジョンぴー。天使は苦笑いです。
「う~それは俺にもわかんねーけどよっ!だいたい俺も、さっきNGワードを言っちまったから、このまま人間界にいられるかどうか危ねえもんだし。ああ、ビールが飲めなくなるのが辛いぜ」
「えっ??」
「へっ気にすんなよ!じゃあな」
明るい声で言うと、天使はパッと大空へ舞い上がりました。またたく間に小さくなっていくその姿を、ジョンぴーはじっと見つめているのでした・・。
時は過ぎて・・
ジョンぴーが故郷に帰ってから、数十年が経過しました・・。
既に子供たちは結婚し、孫も何人か生まれています。故郷に帰った当初は、薔薇の精や天使を思いだして落ち込むばかりのジョンぴーでしたが、優しい家族に囲まれて過ごすうち、いつしかその傷も癒えてしまったようです。今では、若き日の美しい大切な思い出として、ジョンぴーの心の中に刻みこまれていました。
(・・あれは本当のことだったのかなあ)
ソファに座り、膝に乗ってくる孫をあやしながら、ジョンぴーはふと考えます。薔薇の精だとか伝説の巨人だとか天使だとか・・。冷静に考えると、なんとも現実離れしすぎていますもの。
(あの写真、もらっておけば良かった・・)
3人で過ごした最後の朝に、薔薇の精のポラロイドで撮った写真を思い出します。薔薇の精のキラキラ輝く瞳や、天使の人形のように整った笑顔を、もう一度この目で見ることが出来たらどんなにいいでしょう。
(あの二人は、あの頃から歳をとってないのかな? 僕の方はずいぶん変わっちゃったけど)
ジョンぴーは一人苦笑します。うとうとし始めた孫をベットに寝かせると、ついでに鏡で自分の姿を眺めました。認めたくはありませんが、ある人物とそっくりです。
(ワカメをあれだけ食べたのに、全然効かないんだもん)
ため息をつきながらソファに戻り、新聞を広げます。
『国王の双子の弟君、ついに現る!』
もう何度も読んだ見出しを、もう一度読み返しました。昨日から、テレビも新聞もこのニュースで持ちきりなのです。
そう・・。あの時、天使に弟君捜しを断られた王様と大臣は、なんとか自力で見つけ出そうと必死になりました。腕利きの探偵を全世界に送り込んだり、懸賞金付きで情報を求めたり、テレビやyou tubeで王様自らが涙ながらに呼びかけたり・・。しかし、この数十年の間、一向に見つからなかったのです。さすがの王様たちも諦めたという噂が、国民の間で囁かれ始めていました。
ところが、昨日になって突然「私がその弟です」という人物が、お城を訪れたのです。
その人物は「ブライアン・ティーパーティ」と名乗るイギリス人でした。先日までイギリスの大学で天文学の教授をしていたティーパーティ氏は、若い頃ロケット開発にも携わっていたといいます。
慎重な検査の結果、王様と双子であることが99.9%裏付けられ、目出度く国民に発表となったそうです。まっ、検査しなくともひと目で誰の目にも「間違いない!」と分かるほど、そっくりだったようですが・・。ティーパーティ氏が語るところによると、亡くなった両親からお前はとある王国の血筋であると教えられていた。そして、you tubeで呼びかける王様の映像を見た時に自分がそうだと確信を持った。しかし、学問が面白く定年になるまで名乗り出るのは待とうと思っていた・・などなど。
「国王をそんなに待たせて不安じゃなかったかって? いや、それは心配しなかったね。僕と同じで彼もきっと根気強いはずだと確信していたからね。一度決めたことは、どんなことがあってもやり遂げるのさ。そもそも・・・(中略)・・彼も僕と同じくギターが好きだそうじゃないか。僕も退職したら一日ギターを弾いて過ごそうと考えていたのさ。巨大化してギターソロなんて、わくわくするよ」
テレビでぐだぐたと喋り続けるティーパーティ氏は、なるほど顔も声も、そして恐らく性格も王様と瓜二つです。
「すげえな、あいつ!とうとう弟を自力で探し出したぜ」
ここは天界。人間たちのテレビをこっそり覗き見ていた天使が呆れたような声を出しました。王様の願いをはっきり断った天使はその後、神様からレッドカードをくらい人間界に出入り禁止となっていました。
「探し出した・・というより、勝手に出てきたんだけどね」
そう答えたのは、なんと薔薇の精です。今は人間と同じ大きさで、背中には小さな羽根が生えていました。
「ともかく、あんなヤツが世の中に二人もいるのかと思うとウンザリするぜ」
本気で嫌そうな顔の天使。薔薇の精が呆れたように言います。
「ほんとに王様が嫌なんだね、君は。僕はそれより、ジョンぴーがだんだんあの大臣に似てきたことの方が憂鬱だよ」
「あっその禁句を言っちゃ駄目じゃねえか!!作者でさえ、はっきり書かずにぼかしてたのによ」
「だって!僕は、あの頃のフワフワの長い髪のジョンぴーが好きなんだもん」
遠い目で、うっとりしている薔薇の精。天使が口をとがらせました。
「おめえよぉジョンぴーは、どんな姿でも薔薇の精は薔薇の精だって言ってくれたじゃねえか。何言ってやがんだっ!!」
「うふふ」
薔薇の精が嬉しそうに笑います。
「冗談だよ!あの時、僕がどんなに嬉しかったか・・。あっもちろん君が、見ず知らずの僕のために名前を隠してくれてたことも嬉しかったよ」
「へっ一応、仮にも天使だからよっ」
照れくさいのか、天使はちょっと顔を赤くします。薔薇の精は、その様子に気付かない振りをしました。
「・・でも、やっぱりこっちで会うときは、昔の可愛いジョンぴーがいいなあ」
「まだ言うか、おめえ」
再会
結局ジョンぴーは、王様関連の記事をまた隅から隅まで読んでしまいました。
(これで、目出度く巨大化成功か・・)
二人で合体して変身する方法は、あの時に薔薇の精と自分が説明したから大丈夫なはず。ティーパーティ氏用に同じマシーンをもう一台作るのは簡単だし、多少の手直しがあっても、その程度なら王様一人でなんとか対応できるだろう。
・・・そこまでぼんやり考えてたところで、ジョンぴーは大変なことに気がつきました。
「しまった・・!!!!」
思わず声に出して、叫んでしまいます。
「王様の体型がこんなに変わるとは思ってなかった」
叫びながら、自分の部屋へ走ります。久々に全速力で走ったため、部屋の前に着いたころには、すっかり息があがっていました。はあはあ言いながら、昔お城に持参したパソコンを探します。お城から戻ってからは、どうしても開く気にならなくて、戸棚の奥にしまったきりなのでした。
「・・ま、まだ動くかな??」
ドキドキしながら、電源を入れます。どうやら無事に動き出したようで、ホッとするジョンぴー。
思い出した大変なこととは、プログラムの体重設定でした。あの時、マシーン使用可能な体重を、王様の体重プラス20キロまでと設定したのです。当時の王様はひょろひょろと痩せていて、将来太るなんて想像もつきませんでした。それでも、プラス20キロと、かなりの余裕を見た数字にしていたのですが・・。
(今の王様の体重は、当時プラス20キロを確実に超えてるよね)
最近のあのドシーンとした、安定感のありすぎる王様の姿を思い浮かべて、ジョンぴーは冷や汗をかきました。なんとかプログラムを訂正できる方法はないだろうか?? 慌ててこのパソコンを開いてみたのは、そのためです。
(早く、早く・・!)
古いパソコンは、なかなか立ち上がりません。ジョンぴーは気持ちを落ち着かせるため、目を閉じて深呼吸しました。やがて
ちゃらん
と、パソコンが立ち上がった音がします。
(さあ、どうだ!)
気合いを入れて、目をあけました。すると、思いもかけないものが、ジョンぴーの目に飛び込んで来たのです。
(こ、これはっ!!)
ジョンぴーは、しばし絶句しました。そして、プログラムを開くことも忘れて、それを凝視しました。
(・・薔薇の精たち・・!)
そう。パソコンのデスクトップの上に現れたのは、あの若き日の思い出の写真だったのです。フワフワした長い髪の自分を真ん中に、薔薇の精と天使が嬉しそうに微笑んでいました。そのキラキラした笑顔を見ていると、数々の思い出が数十年の時を越えてジョンぴーの心に押し寄せます。ジョンぴーは溢れる思いにこらえられなくなって、うずくまってしまいました。気がつけば、頬を涙がぬらしています。
「・・久しぶりに会えたね・・」
写真に向かって、やっとの思いでそれだけ呟くと、ジョンぴーは激しくしゃくりあげました。
嬉しくて、懐かしくて、そしてたまらなく切なくて・・・。ジョンぴーは、いつまでもいつまでも泣き続けるのでした。
おしまい
おまけ
王様「いくよミスター・ティーパーティ!!」
ティーパーティ氏「ああ王様!!」
二人「ばろ~むQサーティナイン~~!!!!!」
二人「ぎゃ~~~!!」
王様「どうしても体重制限のブザーが鳴ってしまうんだ~」
ティーパーティ氏「どういうことだい?これは」
大臣「『誰でも楽々ダイエットしちゃうマシーン』を発明するのです!!王様~」
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